インボイス制度スタートが発表されてからというもの、何度も改正が行われた事もあり、実はたくさんの特例ができています。
弊所のクライアント様にもたくさんご説明してきましたが、特例が多い事に加え、インボイスを発行する側と受け取る側で対応が異なりますので、なかなかご理解いただくのが難しい内容かも知れません。
例えば「2割特例」や「少額特例」、「交付義務が免除される特例」など、対象になる事業者や期間、要件なども様々ですので、誤った認識で処理を進めてしまわないよう注意が必要になります。
今回はそんなたくさんある特例の中でも、インボイス制度のスタートを期に課税事業者を選択する免税事業者を対象とした「2割特例」について解説したいと思います。
インボイス制度の「2割特例」とは?
これまでもお伝えしてきましたが、基準期間の課税売上が1000万円未満の免税事業者は、本来は消費税を納める義務は無いのですが、インボイスを発行するためにはインボイス発行事業者の登録が必要ですので、自ら課税事業者を選択する必要があります。
そうなると消費税を納める義務が発生しますので、免税事業者は今までに比べて税負担が増える事になるのは間違いありません。
そのため、時限的に納める消費税の負担額が軽減されるよう設けられたのが今回解説させていただく「2割特例」なのです。
このような特例は要件を満たさなければ適用されませんので、まずは要件について順に見ていきましょう。
インボイス制度における「2割特例」の対象となる事業者とならない事業者とは?
2割特例の対象となるのは、令和5年10月1日から始まるインボイス制度を機に、免税事業者から課税事業者となり、インボイス発行事業者の登録を行う事業者の方になります。
本来、消費税は「基準期間」と言って、個人事業者の場合は「前々年」、法人の場合は「前々事業年度」、この期間の「課税売上高」が1000万円を超えるのかどうかによって免税事業者になるのか、課税事業者になるのかが決まります。
そのため、以下のようなケースは「インボイス制度を機に課税事業者になる事業者」には該当しないため、2割特例の対象にはなりませんのでご注意下さい。
- 基準期間の課税売上が1000万円を超えている課税事業者
- 資本金が1000万円を超える新規法人
- インボイス発行事業者の登録に関係なく課税事業者になる事業者
- 課税期間を1カ月又は3カ月に短縮する特例の適用を受ける場合
インボイス制度における「2割特例」の対象期間は?
2割特例の対象期間は「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」となっていて、約3年あります。
また個人事業なのか、法人でも何月決算なのかによって対象となる期間が異なります。
例を挙げますと、
- 個人事業主の場合:令和5年分(10月から12月分)の申告から令和8年分(令和8年1月1日から12月31日分)の申告までの計4回の申告が対象
- 「3月決算」の法人の場合:令和8年9月30日の日の属する課税期間というのが、令和8年4月1日から令和9年3月31日にあたるため、令和9年3月31日までの期が対象
このように適用可能な期間が事業者によって異なりますので注意が必要です。
インボイス制度における「2割特例」の対象となる期間の考え方には注意点がある?
実は2割特例の対象期間について注意しなければならないのが、インボイス制度スタートの令和5年10月1日時点で免税事業者であれば、もれなく令和8年9月30日まで自動的にずっと2割特例が適用されるわけではないという事です。
個人事業主の例で言いますと、令和5年の基準期間(2年前)にあたる令和3年分の課税売上が1000万円未満であれば、令和5年は免税事業者となり、令和5年の10月から12月分は2割特例が適用可能です。
しかし、令和4年分の課税売上が1000万円を超えていた場合、2年後の令和6年はインボイス登録に関係なく課税事業者になることが決まっていますので、2割特例の対象とはなりません。
つまり、このような場合は、令和5年10月1日から12月31日は2割特例が適用されますが、令和6年は対象外という扱いになってしまいますので、対象かどうかの判断には注意が必要です。
逆にインボイス制度スタート時に課税事業者だった場合、2割特例の対象とならない?
先程は令和5年のインボイス制度スタート時に免税事業者だった場合ですが、令和5年のインボイス制度スタート時は課税事業者で、令和6年は免税事業者の場合、この令和6年は2割特例は適用されないのでしょうか。
従来では、令和3年の課税売上が1000万円を超えれば令和5年は課税事業者となり、令和4年の課税売上が1000万円を下回れば、消費税の納税義務者でなくなった旨の届出を出すことで、令和6年は免税事業者となります。
これが、令和5年からインボイス発行事業者の登録を行っている事業者で、引き続き令和6年もインボイスの発行を行うとすると、令和6年は本来であれば免税事業者であるところ、課税事業者を選択することになるため、原則2割特例の適用を受けることができます。
このように、2割特例が対象となる期間中に、基準期間の課税売上が1000万円を超えたり超えなかったりする規模感の事業者の場合、対象となるタイミングがあるかもしれませんので確認する必要があるでしょう。
インボイス制度における「2割特例」の計算方法について
冒頭から2割2割と書いていますが、具体的にどのような計算になるかと言いますと、売上にかかる消費税の2割相当額を納める事になります。
簡単な計算式で言うと、
売上に係る消費税額 – (売上に係る消費税額 × 80% )= 納税額
このような計算になります。
もし原則課税だった場合、実額で計算するためには請求書や領収書がインボイス(適格請求書等)でないといけませんが、2割特例の場合は、売上に係る消費税の額をを元に計算します。
簡易課税と比べた場合は?
2割特例は、売上にかかる消費税の2割分を納めるのですが、簡易課税の場合は売上にかかる消費税に「みなし仕入率」をかけた金額を仕入税額控除します。
簡易課税の仕入税額控除についての基本的な考え方は過去の記事にて解説していますので、そちらをご確認ください。
関連記事>>>『インボイス登録は事業者の状況によって変わる?そのポイントとは?』
簡易課税を選択しているサービス業に分類される事業の場合は、みなし仕入率が50%ですので、2割特例を適用させた方が税負担が減る計算になります。
インボイス制度における「2割特例」は届出が必要?申告の方法は?
インボイス制度で、2割特例の適用を受ける為の届出というのは特に必要ありません。
実は、申告書に2割特例を適用させる旨を記載して提出するだけで良いとされていますので、申告の際に「原則or2割特例」もしくは「簡易or2割特例」のどちらか有利になる方を選んで申告する事が可能です。
また、2割特例は継続して適用しなければならないというルールもありませんので、課税期間ごとに適用するかどうかを検討することが可能です。
ただし、先程から出てきています「簡易課税」は、選択すると原則2年間継続して適用させた後でなければ変更することができませんので、簡易課税を選択後は「簡易or2割特例」を原則2年間選択するような形になりますのでご注意ください。
申告後の更正の請求はできない
先程、申告の際に「原則or2割特例」もしくは「簡易or2割特例」のどちらか有利になる方を選ぶ事が可能だと書かせていただきましたが、2割特例は申告後に適用させることはできません。
一般的に一度申告書を提出した後でも、計算間違いや漏れなどの理由により、後から正しく申告し直すことが可能で、再提出することを「修正申告」や「更正の請求」と言います。
一度納めた税金を返してもらうための申告である「更正の請求」は、その申告において計算に誤りがあった(例えば8%のところを10%で計算してしまっていたというような)場合に提出が可能ですので、原則課税や簡易課税で計算したものも、2割特例で計算したものも、どちらも正しいというケースは更正の請求はできないのです。
まとめ
今回は、免税事業者がインボイス制度スタートを機に、課税事業者になる場合の特例について解説させていただきました。
この記事をご覧の方の中には、取引先からインボイスの登録を迫られているものの、税負担が増えることが気になり、二の足を踏まれている免税事業者の方もおられるかと思います。
税負担が発生すること自体は避けられませんが、取引先から排除されるのも困りますので、このような特例もあるということを、インボイス登録を行うかどうかの判断材料にしていただければと思います。
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