インボイス制度について、これまでいくつかの記事に分けて解説しておりますが、過去の記事の中で、「本来は適格請求書等(インボイス)の保存が無ければ仕入税額控除はできない」と書かせていただいておりました。
しかし、実はインボイス制度には特例がたくさんあり、インボイスの保存が無くても仕入税額控除することができる特例もあります。
その一つが「少額特例」です。
もちろん特例ですので要件を満たす必要がありますが、この特例の対象となりうる事業者が、全事業者の9割に上るという国税庁や総務省の統計を見ても、ほとんどの事業者が対象となりますので、要件の内容をしっかり押さえておけば、活用できる可能性も高いでしょう。
今回はそんな特例の一つである「少額特例」について順に解説していきます。
そもそもインボイス制度の少額特例とは?
少額特例とは分かりやすく言うと、一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置として、要件を満たしていればインボイスの保存がなくても仕入税額控除しても良いですよという特例です。
この特例が適用されるには、対象事業者であるという事に加え、「税込1万円未満の少額の取引であること」と、「一定の事項を記載した帳簿の保存」が必要となります。
これらの条件を満たせば、取引先がインボイス発行事業者であっても、免税事業者であっても、仕入税額控除が令和11年9月30日まで可能になります。
インボイスにおける少額特例の対象事業者は?
少額特例は、一定規模以下の事業者が対象となるのですが、その判断基準は以下のようになっています。
- 基準期間における課税売上高が1億円以下
- 特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者
※特定期間における課税売上高については、納税義務の判定における場合と異なり、課税売上高に代えて給与支払額の合計額による判定はできません。
課税事業者であっても、2年前の課税売上が1億を超えていなければ少額特例の対象になります。
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インボイスにおける少額特例の対象となる取引とは?
少額特例は、税込1万円未満の課税仕入れが適用対象となります。
「税込1万円未満の課税仕入れ」に該当するか否かについては、一回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)が1万円未満かどうかで判定するため、課税仕入れに係る一商品ごとの金額により判定するものではありません。
したがって、5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合(合計12,000円)には、少額特例の対象とはなりません。引用元:国税庁 少額特例の概要 一部抜粋
一回の取引で判断しますので、1ヶ月の間に数回取引があったものを後でまとめて請求されるようなケースでも、その一回ごとの取引が税込1万円未満であれば少額特例の対象となります。
インボイスの少額特例が適用される期間とは?
少額特例は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間が適用対象期間となります。
例えば、少額特例の要件を満たす個人事業主の場合、令和11年は1月1日から12月31日が課税期間ですが、この課税期間の途中の9月30日までしか対象とはなりません。
令和11年10月1日以降は、通常通りインボイスの保存がなければ仕入税額控除できなくなりますので、帳簿処理にはご注意ください。
尚、一度要件を満たせば期間中ずっと適用されるわけではありませんので注意が必要です。
インボイス制度がスタートする令和5年10月1日時点で要件を満たしていても、各課税期間において要件を満たしているかどうかを判断することになりますので、基準期間の課税売上が1億円を超えたり超えなかったりするような事業者の方は、特に注意が必要です。
少額な返還インボイスについて
ここまで解説させていただいた少額特例(仕入税額控除)とは立場が逆のお話になりますが、インボイスを「発行」する側も、少額な場合の特例もありますので併せてご紹介しておきます。
本来、インボイス発行事業者は、適格請求書等(インボイス)を発行する義務があるのですが、売ったときだけでなく、返品や値引きなど売上を返還した際もインボイスの発行が必要になります。
これを「返還インボイス」というのですが、値引きや返品等の金額が税込1万円未満の場合は、返還インボイスの交付義務が免除されます。
国税庁のサイトに記載されている例で言いますと、
例えば、売手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合には、通常、当該振込手数料相当額は1万円未満となりますので、当該売上値引きに係る返還インボイスの交付義務が免除されます。
引用元 国税庁 少額な返還インボイスの交付義務免除の概要
具体的な数字で言いますと、税込11万円で売った(請求した)としても、振込手数料(500円)を差し引かれて、税込109,500円支払われた場合、この売上値引の500円に対しての返還インボイスは交付義務が免除されるということになります。
なお、適用期限や適用対象者について特段の制限はありませんが、適用されるのは「令和5年10月1日以降の課税資産の譲渡等につき行う売上に係る対価の返還等」となっています。
まとめ
今回はインボイス制度における「少額特例」についてまとめてみました。
インボイス制度は売る側なのか、仕入れる側なのかで対応が変わりますが、今回の少額特例は「仕入税額控除」のお話ですので、仕入れる側の対応となります。
課税事業者にとって、取引先が免税事業者やインボイス発行事業者の登録を行わない課税事業者の場合、通常はインボイスが無いと仕入税額控除ができず困るところですが、この特例により、要件を満たしていれば仕入税額控除が可能になります。
ただ、こういった特例は経過措置ですので、適用期間が終わればいずれ仕入税額控除ができなくなってしまいます。
そのため、対象の期間が終わるまでの間に、ビジネス上どのように対応をしていくのか、早めに検討をしておく必要があると言えるでしょう。
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