ビジネスを行っていると、取引先と契約書を交わしたり、お客様に領収書を渡したりと、いろいろな文書を作成する機会が出てくるかと思います。そんな時に、
「この文書には印紙を貼らないといけないのだろうか?」
と一度は迷われたことがある方も多いのではないでしょうか。
印紙税は、印紙税法に定める特定の文書を課税対象とする税金で、ビジネスの中で作成される個々の文書に対して、それが課税文書に該当するのかどうか、また、その税額を自ら判断しなければなりません。
万が一、それを怠った場合はペナルティーを課せられる可能性が出てきますので、そんなことにならないよう、今回は印紙税とはそもそも何なのかといった基本的なことについて、分かりやすく解説していきましょう。
印紙税とは簡単に分かりやすく説明すると?
印紙税とは、経済取引等に伴って契約書や領収書などの文書を作成した場合に、印紙税法に基づきその文書に課税される税金です。
課税される文章とされない文章の違いとは?
少々難しい文言になりますが、そのまま明記しますと、まず課税される文書については、「印紙税法別表第1の課税物件表」に掲げる20種類の文書とされていますので、この課税物件表に該当しない文書には課税されません。
また、「流通取引そのものに課税」しようとするものではなく、「流通取引に伴って作成される文書に課税」される税金ですので、どのような取引が行われたとしても、その取引に関して文書が作成されていなければ印紙税は課税されません。
なお、この場合の文書とは、様式に則って紙面で作成したものに限らず、課税物件表に掲げる内容が記されたものであれば、たとえ木片や布切れであっても印紙税法上の文書に該当します。
印紙税の納付の仕方と怠った場合は?
印紙税の納付については、原則的に納税者(文書の作成者)が自主的に定められた税額を計算し、その金額の収入印紙を文書に貼り付け、消印を行うことによって納付をするという自主納税方式を採っています。
そのため、貼るべき収入印紙が貼っていなかったり納めるべき税額が不足していた場合には、本来の印紙税額の3倍の金額が過怠税として課せられますが、自ら誤りに気づき自己申告した場合には、本来の印紙税額の1.1倍の過怠税が課せられます(印紙税法第20条より)。
さらに、この過怠税は法人税法上の損金や所得税法上の必要経費には算入されないため、流通取引に伴って文書を作成した場合には、その文書が課税物件表のどの文書に該当するのか、十分に注意して判断する必要があります。
参考リンク>>>国税庁ホームページ「印紙税額一覧表(課税物件表)」
印紙税は誰に納める義務がある?
印紙税は誰が納めるのか(納税義務者)について印紙税法では、
「課税文書の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。(印紙税法第3条より)」
と定めています。ここでいう課税文書の作成者とは、原則としてその文書に記載された作成名義人ということになります。
なので、法人などの役員や従業員がその法人などの業務又は財産に関して作成した文書については、例え役員や従業員が作成名義人となっていたとしても、その法人などが文書の作成者となります(印紙税法基本通達第42条より)。
海外との取引の場合も必要?
また、印紙税法は日本の国内法なので、その適用地域は日本国内に限定され、課税文書の作成が国外で行われる場合については、たとえその文書に基づく権利の行使やその文書の保存が国内で行われるものであっても、印紙税が課税されることはありません(印紙税法基本通達第49条より)。
しかし、日本国内で作成された課税文書については、その作成者が非居住者や外国法人であっても印紙税の納税義務者となります。
共同で文書を作成した時の納税義務者は?
実際のビジネスの場では、1人の人(会社)が課税文書を作成することよりも、取引の契約書など複数の人(会社)が共同で課税文書を作成するといったことの方が多いのではないでしょうか。
印紙税法では、ひとつの文書を2人以上で共同して作成した場合には、その2人以上の者は連帯して印紙税を納める義務があると定めています(印紙税法基本通達第47条より)。
例えば、AさんとBさんが2人の間で不動産の売買契約書を2通作成した場合、AさんとBさんは自分自身が保管している契約書だけでなく、相手方が保管している契約書についても納税義務を負っていることになるのです。
なお、印紙税法基本通達第47条では、
「課税文書を共同で作成した者のうち1人がその課税文書に係る印紙税を収めたときには、他の者の納税義務は消滅する。」
とも定められているので、AさんかBさんのどちらかが契約書2通分の印紙税を納めれば、他者の納税義務はなくなるというわけです。
ちなみにその場合、AさんとBさんがそれぞれの印紙税を折半するのかといった負担割合については、印紙税法上の制限はなく、当事者間での取り決めに委ねられています。
印紙税はいつ課税されるの?
印紙税の納税義務者が誰かということがわかったところで、次にいつ納税義務が生じるのかですが、これについては、国税通則法第15条第2項11に「課税文書の作成の時」と定められています。
この場合の作成の時とは、単なる課税文書の調製行為(作成)をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項(契約書の場合は契約内容、領収書の場合は受領内容など)を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいっています(印紙税法基本通達第44条より)。
わかりやすく言うと、具体的には、領収書、手形、借用証書といった相手方に交付する目的で作成された課税文書であれば「交付の時」、
契約書、覚書、念書といった契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成された課税文書であれば「証明の時」、
が課税文書の作成の時となります。
印紙税はどうやって納めるの?
印紙税の納付方法は、難しい表現をすると、税印押なつによる納付や、印紙税納付計器の使用による納付などいろいろな納付方法がありますが、原則的には、収入印紙を課税文書に貼り付け消印をすることで納付をするのですが、実はこの消印の仕方についてもきっちりと決まりがあります。
印紙税法第8条第2項では
「当該課税文書の印紙の彩紋(模様のことです)とにかけ、判明に印紙を消さなければならない。」
と定めています。
そして収入印紙を消す方法は、印紙税法施行令第5条にて
「課税文書の作成者又はその代理人(法人の代表者を含む。)、使用人その他の従業員の印章又は署名で消さなければならない。」
と定められています。
ちなみに印章の場合には、必ずしも契約書等に押印した印判である必要はなく、氏名・名称などを表示した日付印や役職名・名称などを表示したゴム印でも問題はありません。
署名の場合には自筆によるものでなければなりませんが、その表示については氏名の他、通称や商号でも問題はありません。
ただ、たまに「○」と表示されたものや「斜線」を引いて印紙を消してあるものを見かけますが、これらは印章や署名には該当しませんので消印をしたことにはなりませんので注意が必要です。
また、判明に印紙を消さなければならないことから、ひと目で誰が消印したか分かる程度に明瞭に押印または署名をしなければならず、かつ、簡単にその消印を取り去ることが出来ないようにしなければならないことにも注意が必要です(つまり、鉛筆や消えるインクのボールペン等では消印をしたことにはなりません)。
データで保存する場合の印紙税について
ビジネスの世界で日々取り交わされる契約書ですが、最近では紙ベースのものに代えて、電磁的記録(電子データ)により作成し、備え置くケースも増えてきています。
では、電子データで契約書を作成し保存する場合の印紙税はどうなるのでしょうか。
そもそも印紙税法上は、紙の文書を作成しなければ印紙を貼る必要がないため、電磁的記録(電子データ)により作成し備え置く場合には印紙税は課税されません。
これは、契約書に限らず電子メールや電子ファイルなどの電子文書には、印紙税は課税されないことになるのですが、余談を申しますと、最近ではペーパーレス化や電子商取引化の進む中、同じ内容でも紙の文書の場合のみ印紙税が課税されるのは課税の公平性が保たれていないのではないかといった論文も発表されています。
まとめ
ここまで、印紙税とは一体どんな税金で、いつ、誰に対して課され、どうやって納めるのかということについて解説してきましたが、結局、印紙税は課税物件表の第1号文書~第20号文書に対して課税されますので、まずは作成した文書が、課税物件表の第何号文書に該当するのかの判断が重要になります。
ただ、文書の内容が明確に第何号に該当するのか判断できる場合はよいのですが、実際のビジネスの場では、そもそも第何号に該当するのかが明確でなかったり、一つの文書に2つ以上の号に該当する内容が書かれていたりと、判断の難しいケースも出てくるでしょう。
そういった場合にはいい加減に判断をせず、事前に最寄りの税務署に確認したり、弊所に限らず、その辺りに詳しい税理士に相談するなどして、印紙の貼り漏れなどがないよう注意を払い、後に税務署から指摘をされ、ペナルティーを課せられることのないようにすることが大事だと言えるでしょう。
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